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ウィルヘルム・フォン・グローデン

1997年4月25日(金)- 6月28日(土)







フィルムの牧歌
ウィルヘルム・フォン・グローデン賛 

 古代ギリシアはスパルテー・ラコーニア地方を濫觴とするとされる少年愛の習慣は、たちまちのうちに東はシリア、西はヒスパニア、北はカウカソス、南はキレナイカまでの汎ギリシア世界に広がった。とりわけ南イタリアからシリアにかけてのいわゆるマグマ・グラエキアはスパルテーと出自を同じくするドーリス人の植民地だったから、この雄雄しき愛が奨励された、と思われる。

 十九世紀半ばドイツはバルト海沿岸のウィスマルに生まれたウィルヘルム・フォン・グローデン男爵は、病気療養のために移住したシチリアで性愛の古代ギリシアを発見し、のちに贈られたカメラによって熱心に記録する。十九世紀末から二〇世紀初頭にかけてのシチリアで、じっさいに少年愛がおこなわれていたかどうかは、重要ではない。重要なのは男爵が残したフィルムであって、その中には確乎として古代ギリシアの少年愛が存在する。

 古代的な背景の前、テオクリトスの牧歌風にあっけらかんと巨きな陽物を晒して愛を語る少年たちの登場するこれらのフィルムによって男爵は現代のドーリス人、ヴァティカンとファシスタ党はこれらのフィルムに退廃の烙印を押すことによって古代ギリシアの牧歌の健康を断罪したのである。

- 高橋 睦郎




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